自動車教習所での仕事は、単に車の運転技術や交通マナーを教えるだけではありません。日々、年齢も性別も異なる多様な教習生と狭い車内という密着で向き合い、安全と技術を伝える仕事です。
その経験の中で私が得た最も大きな財産は、「まずは相手を知り、1人1人に寄り添ったアプローチを行う重要性」でした。
しかし、最初からそれができていたわけではありません。
指導員としてデビューしたばかりの頃の私は、会話があまり得意ではなく、自分から積極的にに話しかけるタイプでもありませんでした。教習中は沈黙が流れることが多く、アドバイスをしようとしても、どうしても細かな「指摘」ばかりになってしまっていました。
当時私が勤めていた教習所は、教習生から「どの指導員が良かったか、悪かったか」のアンケートを毎期とっていました。
約30名いる指導員の中で13位。上位には遠く及ばない結果でした。アンケートのコメントを見ると「話しかけづらい」「怖い印象がある」といった厳しい言葉が並んでおり、自分の指導スタイルの未熟さを痛感させられました。
このままではいけないと思い知らされた私は、そこから意識を大きく変えることにしました。試行錯誤を重ね、6年ほどかけて多くの教習生と接する中で、ある重要なコツにたどり着いたのです。
それは「自分が上手に話そうとするのではなく、聞く側に回ること」でした。
説明は必要最小限かつ簡潔にとどめ、その代わりに教習生の気持ちを引き出す声かけを意識しました。「今、何かわからないところはありましたか?」「どんな小さなことでも疑問に思ったら、相手が言葉を発しやすい空気を作ることに注力したのです。
すると、車内の重苦しかった雰囲気が一変しました。教習生が緊張をほぐし、自然と自分の不安や質問を口にしてくれるようになったのです。相手の言葉に耳を傾けることで、その人の性格や運転の癖、適性がより深く見えてくるようになり、1人1人に最適な指導ができるようになっていきました。
その結果、年間のアンケート評価で、私は30名中「3位」にまで順位を上げることができました。
自由に書かれたコメントの中で、圧倒的に多かったのは「とても丁寧に教えてくれた」という言葉でした。一方的に教えこむのではなく、相手のペースに寄り添って耳を傾けるこそが、教習生にとっての「丁寧さ」として伝わったのだと感じています。
人は1人1人違います。だからこそ、自分のやり方を押し付けるのではなく、まず相手のことを知り、相手に合わせた伝え方を選ぶこと。教習所での日々で培ったこのコミュニケーションの真髄は、今も私の人生において大きな糧となっています。
私が思うコミュニケーション上手な人は聞き上手な人で相手に興味を持とうとする人だと思っています。
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